2010年11月29日月曜日

そ、そんな・・・ (トラウマ)

余りに突然だったので、事態を把握できず、何をどう答えるかの前に、頭を整理する必要がありました。
「え~ッ! ちょっと待ってよ、唐突すぎて話が見えないよ。 その人の事、もうちょっと詳しく教えてよ。 いつ知り合ったの?」
S.S.は出会いから現在までを大まかに説明し始めました。 そう言えば、最近知り合った人で頭の切れる面白い人がいるから、そのうち紹介するねと言ってた事がありましたから、その男と交際していたのでしょう。 取り敢えず気を落ち着けて、彼女の話をきちんと理解しないことには対応のしようがありません。 必死に取り繕っていましたが、話を聞きながら頭の中の混乱を整理するのは容易な事ではありません。 ただ「聞き役」に徹するのが精一杯でした。 
「未だ早いよ。 俺ら18だぜ。」
絞り出してやっと口から出た言葉はこれだけでした。
「でもね、こんな私でもいいからって言って、貰ってくれる人がいるんだから・・・。」
そう口にするS.S.は、私が今まで一度も見た事がない、幸せそうな顔をしていました。 私はS.S.の笑顔が好きで、どうしたらその笑顔が見られるのかとばかり考えていました。 でもその彼女がこんな表情をするなんて、これまで想像した事もありませんでした。 初めて見た幸せそうなその顔に向かって、結婚を否定するような言葉はとてもではありませんが言えませんでしたし、まともに目を見る事ができずに俯きながら、相づちを打つ以上の事もできませんでした。 
「こういうのが『縁』なのかも知れないって思っているのよ。 みんな『未だ早い』って言うけれど、そんなのただ遅いか早いかの違いだけでしょ。」
S.S.は話を続けましたが、声は聞こえても上の空で何も考えられません。 どれだけ時間が経ったのでしょう、いつの間にか彼女は子供の頃の話をしていました。 何度か聞いた事のある、2人目の母親の話です。 S.S.とは中学校は同じでしたが、小学校は別でした。 小学校の写真は友人から卒業アルバムを見せて貰い、集合写真の中に小さく映った彼女の顔しか見た事がありません。 何度も家に遊びに来ているのですが、彼女のアルバムの類は一度も見せて貰った事がありません。 小学校低学年の時に撮した写真は全て、寂しそうな目をしているから人に見せたくなかったのだそうです。 無理もありません。 いくら弟を愛していると言ったって、小学校低学年が継母から露骨に差別をされても我慢していたのです。 高学年になった頃には精神的にもかなりタフになり、殆ど表情に出なくなったようで、私が生徒会で一緒になった中学2年生の頃にはそんな片鱗も見えませんでした。 また、これまで誰にもそんな事を指摘された事はなかったそうです。

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