2010年11月27日土曜日

冷めた目 (トラウマ)

ラッキーパンチのように放った言葉以外にも、彼女にとってよかったことがあったようです。 彼女が自分でやると決めた仕事ですから、私が何を言っても辞める訳はないと思っていたので、「辞めなよ。」とはどうしても口にできなかった事です。 私にとっては何も出来ない自分の不甲斐なさに落ち込まされる事だったのですが、逆にS.S.にとってはそれが心地良かったようなのです。 彼女の友人は異口同音に
「辞めちゃいなよ、そんな仕事。」
と、ありきたりの返事しか返ってこないので、仕事の話を友人にしているとうんざりすることが多かった時に、私はそんな事を一言も口にしなかったので、言いたい事を気の済むまで話せたようです。
互いに求めるものや、見つめている所が違っていたようですが、それでも話の息は合っていて、会話のやり取りは楽しいものでした。 ですが私にとっては、彼女が大人に見えて自分との「差」がどんどん広がって感じる事以外に、もう一つ、悩みの種がありました。
彼女と話をしていると、たまにすごく冷たい視線を向けられるのです。 私が何かいやらしいことを事をしたとか、軽蔑されるような発言をしたとかではなく、何かの折に一瞬そんな目をするのです。 その冷たい視線はまるでアイスピックのように鋭く私の心を貫き、いくら話が弾んでいても、その目を見るとゾッとして一瞬言葉が止まってしまうほどでした。 出勤時間ギリギリまで話し込んだ帰路、その冷たい視線を思い出すと、「やっぱり俺なんかに惚れる訳ないよな。 惚れた相手にあんな目をする訳ないしな。」とがっくり肩を落としたものです。 この「冷めた目」が私に向けられたものなのか、何を意味しているのか、私には分かりませんでした。 何度も話題にしかけたのですが、その都度、触れてはいけない事のように感じて、結局黙っていました。
「久しぶりに会いたいな」と思い、彼女の笑顔を思い浮かべながら電話の受話器を上げた時、この「冷めた目」をしたS.S.の顔が浮かんできたので、ダイヤルを回さずに受話器を置いた事は1度や2度ではありませんでした。 いつも心の底から楽しそうに笑う顔が私を惹き付けて放さないのですが、その笑顔の裏に潜む、「冷めた目」は私を突き放し、決して近づけさせなかったのです。

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