ですが、プロポーズをした彼は、2人目の母親の話をした時、
「それが原因なんだろうな、お前がたまに『冷め切った目』をするのは。」
とあっさり言ったそうです。 その時S.S.は何でこの人はそこまで人の心が読めるんだろうととても感心したそうです。 話の前後から推測するに、それが彼に惹かれていくきっかけではなかったかと思われます。 私は、
「いや、その事には俺も気付いていたよ。」
と言いたくなりました。 でも、気付いていたのは「冷め切った目」だけで、そんな目をする理由を彼女の生い立ちには求めませんでした。 そんな目をされたので、私に気がないのだろうと、自分の事だけを考えていたのです。 プロポーズをした彼のように、S.S.の気持ちを理解してあげる事ができなかったのです。 これまでもS.S.と話をしていて自分が「子供」だなと思う事は何度もありました。 でも、これほど自分が「小さく」かつ「情けなく」感じた事はありませんでした。 「やっぱり俺とS.S.じゃ吊り合わなかったんだ。」そんな思いが重くのし掛かってきて、気持ちは深く沈みました。 せめてS.S.に気付かれないようにと表情を取り繕いましたが、恐らく表情にははっきりと出ていたはずです。 幸か不幸かこの日のS.S.は自分の世界に浸っていたので、私の表情なんかお構いなしに話し続けました。
誰だって失恋経験の1つや2つはあるでしょうが、私はこの日の出来事からいつまでも立ち直る事ができませんでした。 それは丁度、「片金」になってしまっても直ぐには実感が湧かずに、じわじわと私の心を蝕んでいったのと似ていました。 時間が経てば経つほど気力が萎え、S.S.の事が頭から離れなくなってゆきました。 学校は期末試験までまだ間がありましたが、受験を控えている3年生ですから、皆夏期講習の選択に忙しい時期でした。 進学を諦めた私は周りの目には1人で机に伏せて暢気に寝ているように映っていたと思いますが、実際は涙を見られたくないので寝ている振りをしていただけでした。 激しくは落ち込みませんでしたが「もうどうなってもいいや」と自棄になっている部分と、「このままじゃまるっきり負け組の人生じゃないか、なんとかしないと。」という意識の狭間で方向性を見出せずに時間を右から左にうっちゃるような日々がしばらく続きました。 期末試験が終わり、夏休みを迎え、2学期が始まりましたが、中途半端に落ち込んでいる事には何ら代わりがありませんでした。