2011年2月12日土曜日

絵画購入 (トラウマ)

私が現代芸術に直に触れるきっかけとなったのはK.A.先生が「画廊」を開いたからです。 ですが、この画廊はK.A.先生の「趣味」で開いたようなもので、本当に気に入った作品は飾っては置いても売りませんでした。 値段もあって無いようなもので、気に入った客には仕入れ価格ギリギリまでまけて売っていましたし、気に入らない客にはいくら金を積まれても売ろうとしませんでした。 版画などで気に入った作品があると、2枚も3枚も「秘蔵品」として倉庫に仕舞い込み、展示すらしないのです。 私はたまにこの「秘蔵品」を見る機会がありましたが、手放したくない気持ちがよく分かる、素晴らしいものばかりでした。 ですが、見た直後にその絵の事を口にしたりはしませんでした。 後日、画廊に新しい作品が入り、皆が誉めているとき、私も一緒になってその作品を誉めます。 勿論、お世辞などではなく、いいと思うから誉めるのですし、いいと思えば買いたくもなります。 売る方だって、本当に欲しがっているかどうかは見れば分かります。 売る気になれば簡単に落ちてしまう私へのセールスは最後になりがちです。 ですが、私も人が少なくなるのを待っていました。 
「どうだ、なんか気に入ったのがあったか? お前なら安くしてやるぞ。」
そう言われると、自分の気に入った作品をいくつか指さします。 ここでK.A.先生が気に入っている作品を指すと、私を見る眼が変わり、その気になればかなり安く購入することができます。 そんなときは「特別価格」で販売してくれるのです。
「○○円で出してやるから持って行けよ。」
その値段はかなりお得な価格です。
「そんなに安くして貰っていいんですか?」
「ああ、かまわないよ。」
「でも一枚、もっと気になる絵があるんですよ。」
「どれだい?」
「アルチガスのオレンジ色のハート型の版画を先生2枚持っていますよね。」
「なんで、そんな事知っているんだ?」
「ずっと前に1度見せて貰って、頭から離れないんですよ。 どうせ買うなら、本当に気に入った一枚が欲しいですから。」
秘蔵品ですから、そう簡単に出せない事は分かっていますが、コレクターは自分と好みが同じ人間に親近感を懐くようです。 かなり考え込んだ後、トレーナー兼秘書に向かって
「おい、奴の言っている作品分かるか? 分かったら持って来てやれ。」
そして私に向かって
「これは仕入値もずっと高いから、さっきの作品みたいに安くならないぞ。」
「構いません。 倍でもこちらの方がいいです。」
「分かったよ、じゃあ、○○円で譲ってやるよ。」
そんなやり取りで、2〜3枚、K.A.先生の秘蔵品を購入した事がありました。
私にとって気に入った作品を身近に置いて眺める時間はとても幸せな時間でした。 気に入った絵画とは本当に麻薬のようなもので、1度手に入れると、次々に欲しくなってしまいます。 画商の間では、素人でも3枚買わせれば常連客になると言われているそうです。 当時、月に43〜45万円貰っていましたから、ちょっと無理すれば絵画を購入できたので、完全な趣味になってしまいました。
そして、それが気に入らないは、これまで以上に私に干渉するようになりました。 絵画購入を我慢すれば母もここまでヒステリックにはならない事も解っていましたが、ただ単に好きなだけではなく、目的があって購入しているのです。 私は「母との関係」を躊躇なく切り、「絵画購入」を選びました。

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