2011年2月9日水曜日

転換点 (トラウマ)

そんな私に転機が訪れました。 と言っても特別何があった訳ではありません。 その日はある大学の天文台外装工事をしていました。 いつもこなしている作業をしていたのですが、いくつかの条件が重なった為に、いつものようにきれいに加工できない部分がありました。
「おい、ここ、もっときれいに仕上げておけ。」
「板の長さが足りないので、ズレ止め吊子のハゼと重なるので、何度潰してもここまでしか仕上がらなかったんです。」
「きれいにやれと言ったらやりゃあいいんだよ!」
いつもだったら「はい、済みませんでした。」と言って慌ててやり直していた所ですが、この日は何故か無性に腹が立ち、返事もせずに1度取り付けた箇所を全て取り外し、重なる部分を全てずらして納め直しました。 非常に手間がかかりますし、取り扱いを一つ間違えれば全てシワだらけになってしまう、慎重を要する作業でしたが、余りに腹が立ったので、そんな事にお構いなしにバタバタと処理しました。 終わったときに「あれ?」と自分で不思議に思ったのです。 いつもの3〜4分の1の時間で全て終わってしまい、しかも仕上がりはさっきよりずっときれいなのです。 やれば出来るのに出来ない理由を見つけ、やらなかった自分を反省しました。 職人の世界では「屁理屈ばかりこねてなにもできやしない。」と非難される事なので、こういった事だけはしないようにと常に気を付けていたにも拘わらず、多少仕事が慣れてきたので、無意識にやってしまっていたのです。 そして、いつも親方の顔色を窺いながら仕事をしていた私が、親方に腹を立てた事で仕事だけに集中したので、本来持っていた技術をフルに発揮できたのです。 この時「起きた」出来事はこれで終わりましたが、この時私が「学んだ」出来事は私の胸に深く刻まれたようです。 この日以来、私は親方の顔色を窺う事もなくなりましたし、親方も何一つ文句を言う事もなければ、不機嫌な顔をする事もなくなりました。 1年半前と比べると、仕事も数段早くなり、P.S.さんが忙しくて呼んだ他の職人にも決して遅れをとる事なく仕事ができるようになりました。 この日、私は自分で立てた目標をもう一つクリアしたようです。
又、この数日後には親方の息子も暫く仕事を手伝う事になりました。 勤めていた会社を辞めたのはいいけれど、次の仕事がなかなか決まらず、手が足りない状態なので奥さん息子に声をかけたようです。 親方とこの息子は性格が正反対で、何をやっても反りが合わなかったのですが、私がいる事で双方とも多少は我慢ができるだろうと考えたようです。 言い換えれば、私が仲の悪い2人のクッションに入る訳ですから、「ちょっとな〜」とも思いましたが、考えようによっては私の重要度が増した訳ですから、それはそれでいいのかもしれないと自分を納得させました。 ちょっと悩んだのは、親子の仲が悪いだけではなく、いい加減な性格なので、とてもこの仕事をこなせず、足を引っ張られると感じたからです。

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