2010年10月13日水曜日

現代美術の勧め (世代間伝播)



JA研究所のK.A.先生に家業を継ぐ事を勧められた事が鈑金職人なったきっかけでした。 先細りな業界には家業を継ぐ者がいないからこそ、やり方次第で大きく伸ばして行ける。 そのやり方は少しずつ教えてあげるからと言われたのでその言葉に従いました。 父の仕事を覚え始めて数年経ち、ある程度技術が身についた頃、K.A.先生はもっと現代美術を勉強するようにとアドバイスを下さいました。 真の芸術とは常に来るべき時代を先取りしてそれを表現する「革命」であり、「予言」である。 その芸術に直に触れる事により、次の時代のセンスを身に付け、伝統的な技術を持っても職人の枠に閉じ籠もらず、時代に合ったものを、そして次の時代を先取りするようなものを作れる職人になれというのです。 私にどこまでできるか分かりませんが、例え職人として「腕自慢」ができるような技術を身につけたとしても、鼻が高くなっただけで時代に取り残されてしまう「井の中の蛙」ではどうしようもありません。 来るべき時代を見通す感覚とそれを表現できる高い技術を身につける事は、先行きの暗い業界の中で事業を営んでゆく為の有効な打開策の一つであることは間違いないのですから、できる限りの事をしようと努めました。 収入を版画などの美術品購入に割きました。 日本では版画を油絵よりも一段下に見ていますが、画家の大部分は同じモチーフの油絵を何十も何百も描いています。 逆に版画でも印刷枚数を明記し、通しナンバーが打ってあればその枚数以上同じものはこの世に存在しません。 製作には油絵の方が時間がかかるかも知れませんが、作品の価値は「制作時間」に比例するわけではありませんし、現代的なモチーフの表現にはシャープな版画の方が油絵よりも向いており、秀作も多い上に価格が安い版画の中から良い作品を選んで身近に置き、常に作品に触れる事が現代美術を理解する最善の方法であるとのアドバイスを貰ったからです。 実際、美術品には麻薬性があるかのようでした。 K.A.先生に美術品の見方を教えて頂くと次第にその魅力の虜になり、仕事が休みの日は美術館に通い、海外の画集を取り寄せ始め、頭の中はコンテンポラリーアートで一杯になりました。

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