それでもハワイでの仕事はとても楽しかった事に変わりありません。 何より仕事に自信が付きました。 自宅で父と仕事をしていただけでは、自分の腕がどの程度なのかさっぱり分かりませんでしたが、銅板工事を専門にしている業者の中で、後れを取らずに仕事が出来ましたし、仕上がりは私の方が遙かにきれいです。 納めの技術も知識も私の方が上でしたから、何処へ行っても胸を張って仕事が出来るようになったのです。
それから間もなく、更に自信が付く出来事がやって来ました。 「板金加工技術研究会」の講師でもあり、関東では最も腕がよいと噂されていた職人のP.S.さんから、忙しいので2週間ほど仕事を手伝ってくれないかと声をかけて貰えたのです。 以前から、働くならP.S.さんの元で働きたいと思っていましたから、私は喜んで手伝いに行きました。 覚えたかった銅板工事以外にも、天文台の外装やプラネタリウムの内装のような特殊な工事を数多く手掛けています。
これまで「目標」にしていた事が次々と実現してきたので、私はすっかり有頂天でした。 つい1年前までは「努力なんて報われないもんなんだな」と落ち込む事があったのに、いつの間にか「石の上にも三年」が座右の銘になっていました。 これまでJA研究所でも、「質問」はしても「発言」はほとんど出来ませんでしたが、いつの間にか自分の意見を述べるようになりました。 K.A.先生が教えて下さった事の1つ1つが、「体験」を通じて理解でき、これまでの自分がいかに「観念的」であったかも分かり、これまでバラバラに理解していた事が徐々に「統合」されだしたのです。 「新しい時代は私塾から築かれる」とK.A.先生はたまに口にしていましたが、その考えの広範さと深遠さが有機的に次々と新しい事を産みだしてゆく様は、「新しい時代への思想」を感じさせ、今まで以上にK.A.先生に惹かれてゆきました。
プラネタリウムの内装は、一見白いドーム型の壁に見えますが、ただの壁だと音が反響してしまうので、非常に細かい穴が空いた「パンチングメタル」に、星や様々な映像を映し出すのに適した輝度を持つ特殊な塗装を施したものを使用しています。 その裏には吸音材を入れて音の反響を防いでいるのです。
地球儀を想像すれば分かると思いますが、 円弧状に加工した細い角パイプを経線と緯線に沿って組み上げたものが「下地」となります。 角パイプでできた4辺はほぼ「台形」となりますので、「パンチングメタル」をこの台形と同じ大きさに切断し、「下地」にリベット等間隔に取り付けてゆきます。 このリベットと切断面は塗装されていませんから、タッチアップを行いながらの取付作業です。 アルミニウムなので簡単にシワが入ってしまいますし、塗装にも木材と同様に「方向」があります。 又、僅かでも汚れが付くと決して取れませんから、取り扱いを誤ると後でやり直しになる非常に気を遣う作業でした。 改装工事で非常に埃っぽく、しかも換気が悪く、タッチアップに有機溶剤を用いるので酔ってしまい、工期が迫っているので休憩時間も余りない上に連日の残業でしたから他の人達はぼやいていましたが、特殊工法を覚えたかった私には苦でも何でもありませんでした。
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