その週末、いつものようにワイキキビーチを散歩し、その先にある水族館にまで足を伸ばしました。 ずっと行きたかったのですが、もっと興味のある場所が沢山あり、後回しになっていたのです。 受付でチケットを購入しようとすると、オープンカーに乗った男が私に向かって声をかけ、手招きしています。 観光客に道を聞く訳はないから、一体何の用だろう? とダイヤモンドヘッドからワイキキを抜け、アラモアナへと続く道に停まっている車に近付きました。
「ハワイへは遊びに来たのかい?」
「いいえ、仕事できました。」
「何の仕事?」
「ダイヤモンドヘッドで新築中の別荘の屋根葺きです。」
「へ~、そうなんだ。 ハワイは気に入って貰えたかな?」
「ええ、とっても」
地元の人とする、いつもの会話です。 ですがこの時、私には上手く言い表せない???を感じていました。
明るく開放的な雰囲気は、例え「ジャパンパッシング」をした入国審査官にですら「好感」を持たせてくれるものがありましたから、出逢う人、出会う出来事の全てが楽しくて仕方なかったので、この???は、ハワイに来てから始めて感じるものでした。 ですが、それが何なのかは全く見当が付きませんでした。 面長で金髪を短く刈り上げ、 シートに腰掛けていても長身だと分かるその男は、離れていると細身に見えますが、車の隣で見ると胸板も厚く、腕も丸太のような体付きでした。 そして、そんな事を感じさせない優しそうな笑顔で話を続けます。
「○○は好きかい?」
「え、○○って何ですか?」
始めて聞く単語です。 恐らくスラングでしょう。 優しそうな笑顔が何となく「ねっちっこく」感じました。 彼はハンドルを握っていた掌を何かを握るように丸め、下に降ろし、下腹部の前で上下に動かし、目をとろ~んとさせました。
「やばい!」
本能的にそう感じました。 一瞬身じろぐとその男はねちっこい笑顔で私を真っ直ぐ見つめています。 噂には聞いていましたが、生まれて始めてホモに出逢った瞬間でした。
「え、ええ、す、好きですよ。」
口ごもってそう答えると、水族館を指差し、
「もう行かなくちゃ。」
そう言うなりねちっこい男に背を向けて、周りで一番人が多い水族館に走ってゆきました。 入口でチケットを買う時に、チラリと車の方を振り返ると、こっちを見つめながら微笑んでいます。 怖くなり慌てて中に入りましたが、追っては来ないかと気になり、中で何を飼っているのか全く覚えていません。 窓からさっきの男がまだ道路にいないか何度も確認し、水族館からアパートまで人の多くいる場所を選んで歩きました。 何度も後ろを振り返り、周りを見回しながら歩いているので、端から見たら挙動不審者だったはずです。 護身用のバックルナイフに何度も手をかけ、咄嗟にバックルからナイフを取り出せるように構えながら、足早にアパートへと向かいました。
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