2011年4月10日日曜日

改善提案 (タイの日常生活)

 4月1日、午後の事です。 斜め向かいの事務員が、突然コピー用紙を梱包している段ボール箱の1つを持ち出して来て、斜め切断し始めました。

 最初、私は気にも留めなかったのですが、彼女の上司が向こうから、ああだのこうだのと指示を飛ばしています。


不器用な部下に手をこまねいて、実際にやってみせる上司


 「改善」がどうのこうのと騒いでいるのですが、私も自分の仕事をしていたので見向きもしませんでした。

 切断終わると、今度は金色装飾用紙を取り出して、箱に貼り付けようとしていますが、上手くいきません

 彼女はちょっと不器用です。


やって見せ、言って聞かせて、させてみて、誉めてやらねば、人は動かじ
(上杉鷹山)


 そのうち、向こうから指示を出していた上司痺れを切らして手伝いに来ました。

 そして、二人がかりで段ボール箱に金色の紙を貼り付け始めました。


ほらそこ留めるのよ。」  「早くずれちゃうじゃない。」


 上司が段ボール箱を金紙で包みながら抑え、もう1人がテープで留めるのです。

 シワになるので何度もやり直しながら貼り付けています。

 見ていると、上司も「口が回る」だけで、決して器用な訳ではありません


2人の息はなかなか合いません


 このコンビ、どうやら会社で毎年1人最低1件
を目指して行っている「改善提案」エントリーさせる為にこんなものを作っているようです。

 テープで金紙の3方向留め終わり、箱の内側に折り返そうとする時、「逃げ」を作らずに端から織り込んで行くので、反対側シワが寄ってしまいました。


次に巻き込む事など全く考えません。 前進あるのみ。


 最初はそのシワを直そうと努力していましたが、最初から「やり直す」しか方法がないと分かると、上司は「シワを容認する」決断をしました。

 欲求水準落とせば、私達の「悩み」「苦しみ」消えてゆくという事を、この上司は理屈ではなく体験的に知っています。


どうしてもシワになってしまう事にやっと気付きました


 部下は「これでいいのかしら?」という顔をしていましたが、「うん、綺麗なものよ」という上司の一言で、彼女の表情から「迷い」は消えていました。

 もう、
テープを留めるその手にためらいはありません。

 部下の迷い一瞬消し去る一言に、「年の功」と言えばいいのでしょうか、「貫禄」すら感じさせるものがあります。


言っておくけど、部下の「抑え方」
悪く
シワになるんじゃないですよ


 何でこんなものを作り始めたのかと言えば、ロッカーの上に「平積み」にしていた数冊の「帳簿」を整理して見栄えをよくし、なおかつ「改善提案」にも結びつける、人事・総務課知恵を絞った結果なのです。

 出来上がって「残業記録帳」を突っ込んだその隣をよく見ると、銀色の箱もあります。


鶴の一声「うん、綺麗なものよ」


 昨年、人事総務部がエントリーした「改善提案」だそうです。

 コピー用紙が入っていた段ボール箱の「蓋」銀色の紙を貼り付けたものですから、昨年とセットです。

 この2つをよく見比べれば、この1年間の彼女たちの「成長ぶり」がうかがえます。

 社内の「改善提案」を取り仕切る人事総務課に相応しい提案です。


2人1時間がかりの「労作」


 そして、来年はどんな「改善提案」をしてくれるのか、彼女たちの成長楽しみです。
 今年、製作に手間取った女の子が、来年は1人でできるようになるでしょうか? テープは上手に貼れるでしょうか?

 ただ残念な事に、私は今月末でこの会社を去らなくてはなりません ので、彼女たちの成長ぶりをこの目確認できない事が心残りです。


これで職場が更に整理整頓されました


 1年間で最も優れた「改善提案」をした者は、日本本社で行われる「改善提案発表会」にタイ代表として招待され、「改善提案」と共に、本社工場見学等を兼ねた「日本旅行」に行く事ができます。


昨年改善提案


 日本から派遣役員最終審査を行いますが、昨年は「ろくな提案がない」ので、タイからの改善提案を取りやめにするかどうか、真剣に議論していました。

 そして、実際は大した事のない提案を「粉飾」する為に社長次長がかなりの時間を費やしましたから、実際はタイ支社の社長と次長の合同提案でした。

 今年は昨年以上に頭を悩ます事になりそうです。

 惜しむらくは、この2人の提案がほぼ確実に「選考対象外」になりそうだという事です。


彼女たちは来年、どんな「改善提案」をしてくれるのでしょうか?


 私達人間が互いに理解し合えるようになる為には、「歩み寄り」が必要ですが、やっかいな事に「譲れない線」というものもあります。

 この会社の社員役員隔たりはかなり大きそうです。

 今回の「改善提案」を行った人事・総務副課長は、自分作った帳簿立てを眺めながら、「芸術的よね」自画自賛して誇らしげな表情でした。




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