2011年1月28日金曜日

異文化 (トラウマ)

「何でだろうな? 何かあったのかな?」
私を慰めようにも言葉が見つからなかったからなのか、それとも本当に納得がいかなかったのか、彼は暫くの間ダウンタウンをぐるぐると廻りました。
「駄目だ、本当にいないや。 今日は諦めようぜ。」
「う~ん、本当に残念だな。 もう、あんまり工期も残っていないのにな。」
そんな会話をしながら、車がダウンタウンを出ようとした時、遠目にも場違いと思うような女性が目の前をこちらに向かって歩いています。
「あれは?」
「いたよ、やったじゃん!」
「でもどうする? 1人しかいないんだぞ。」
「俺はいつだって来られるんだから、お前が行くべきだ。」
「いいのか?」
「勿論だよ」
いつの間にか芽生えた熱い男の友情に深く感謝しました。 車はさっきのようにゆっくりと近付きましたが、さっきのように素通りせず、その女性の横で止まりました。 カラカウア通りのトップランカーには劣りますが、ミドルクラス以上の実力は充分にあります。 「金髪・青い瞳・白人」と3拍子揃っていますから、もし半値だったら超お買い得です。 頭の中は既に、本番の “味” がどうなのかに思考の焦点が映っています。
「今日は誰もいないけれど、何かあったの?」
「今日から一斉取り締まりなのよ。」
「あ、そうだったのか。 カラカウア通りにから来たんだけれど、あっちにもいなかったんだ。」
「ダウンタウンだけじゃないみたいよ。」
「いつまで?」
「分からないわ。 でも暫く続きそうね。」
「そうか、残念だけれど、又今度の機会にするよ。」
そう言って見習い職人は車を発進させてその女性から遠ざかりました。
「何で? いいじゃん、今の子。 俺、全然OKだよ!」
彼は一瞬困った顔をしてゆっくりとこう言いました。
“She was a man.”
確か、中学1年の英語の授業で、「不正解例」として先生が黒板に大きく書いたような記憶がある例文です。 時代が、場所が変われば、言葉も変わってゆく。 言葉は生きているんだなと、しみじみ思いました。

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