鞄の中の潰れたアリとその卵を拭き取りながら、ようやく状況が飲み込めてきました。 「小さなお寺」のクティは直ぐ後ろの山の麓にあります。 大雨が降りそうな時、よく観察していると、卵を咥えたアリが隊列を組んで山の中に移動します。 多分、木ノ上にでも卵を避難させるのでしょう。 そして、雨が止むと再び隊列を組んで山から降りてきます。 クティはアリの「巣」と「一時避難所」の間に位置している訳ですが、雨が降っても卵が安全な事が分かるのでしょう、ちょっと油断するとタンスの中や裏側に巣を作ってしまいます。 以前はベッドの中に巣くった事もありました。 そして私が丸2日間、タンスの上に鞄を置いていた間に、アリが巣を作ってしまったのです。 帰り支度を急いだので、鞄の中を見ずにパソコンや周辺機器を突っ込んでファスナーを閉めてしまったので、アリが逃げ出す暇がなかったのでしょう。
そんな事を考えてふと足元を見ると、絨毯に何十匹もの潰れたアリがからまっています。 私が鞄と窓の間を何度も往復している間に踏んづけてしまったのでしょう、捩れた体でピクピクしています。 社長が女性のこの会社は、「きれいな事務所にしたい」という思いで絨毯張りにしたのですが、そこに大きな赤アリが潰れて絡まっていては「台無し」になってしまいますし、露骨に「不快感」を私に向けてくるでしょう。 幸い、今日は月例の日本出張なので、一匹ずつゆっくりと摘み取る事ができましたが、こんな所を見つかったら、言い訳の常套句である
「ここはタイですから、仕方ありませんね。」
は多分使えないでしょう。卵を咥えた大きな赤アリがウロウロしているバンコク事務所なんて、日系企業では聞いた事がありませんから。
別にこの大きな赤アリに限りませんが、タイではアリは結構厄介な「害虫」です。 ほんの一瞬とはいえ、噛まれると強い痛みが走り、種類によっては熟睡していても目が覚める程です。
何故か「機械」が好きで、小さなアリはよく「壁掛け時計」の中に巣を作ります。 ギヤに引っかかって潰されてしまい、その死体が原因で時計が正常に動かなくなる事がたまにあります。
又、パソコンの中に巣くう事もあります。 ハードディスクに入り込むと、動作不良の原因になります。 10年ほど前、中古ノートパソコン専門のパソコンショップでアルバイトをしていた事があります。 その時、ハードディスクの動作不良が原因らしいパソコンの修理現場に立ち会った事があります。 2.5インチハードディスクを取り出し、蓋を開けると中から無数のアリがウジャウジャと出てきました。 内部に殺虫スプレーを吹きかけて、天日干し約1時間。 その後もう一度殺虫スプレーを吹きかけて再度天日干しを約1時間。 最後にCRC-556の類似品を吹きかけ、ハードディスクを元に戻した所、そのノートは正常に動作するようになりました。 こんな事を2回も見ると、ノートパソコンのそばをアリが歩く事が許せなくなります。
ですが、高級コンドミニアムにでも住んでいるならともかく、駅から歩いて3~4分の距離なのに部屋代が4,000バーツなんていう激安のアパートに住んでいる者には、アリと無縁の生活を送る事は夢の又夢。 部屋の中でゴキブリを目撃しないだけでも有り難いと感謝しなければなりません。
一度でいいから、バンコクに住む一般的な日本人の生活を謳歌してみたいものです。
帰宅する前に、ベランダを覗き込むと、潰れた赤アリの死骸と卵が散在し、その周りには小さな黒アリが沢山たかっています。
翌日出社してベランダを眺めましたが、昨日の出来事が嘘のようにきれいに片付いていました。
バンコクにあるオフィスビルのベランダで起きた「食物連鎖」は、私に自然の力強さを感じさせてくれました。
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