2012年6月22日金曜日

アリの巣 2

 鞄の中の潰れたアリとその卵を拭き取りながら、ようやく状況が飲み込めてきました。 「小さなお寺」のクティは直ぐ後ろの山の麓にあります。 大雨が降りそうな時、よく観察していると、卵を咥えたアリが隊列を組んで山の中に移動します。 多分、木ノ上にでも卵を避難させるのでしょう。 そして、雨が止むと再び隊列を組んで山から降りてきます。 クティはアリの「巣」と「一時避難所」の間に位置している訳ですが、雨が降っても卵が安全な事が分かるのでしょう、ちょっと油断するとタンスの中や裏側に巣を作ってしまいます。 以前はベッドの中に巣くった事もありました。 そして私が丸2日間、タンスの上に鞄を置いていた間に、アリが巣を作ってしまったのです。 帰り支度を急いだので、鞄の中を見ずにパソコンや周辺機器を突っ込んでファスナーを閉めてしまったので、アリが逃げ出す暇がなかったのでしょう。

 そんな事を考えてふと足元を見ると、絨毯に
何十匹もの潰れたアリがからまっています。 私が鞄と窓の間を何度も往復している間に踏んづけてしまったのでしょう、捩れた体でピクピクしています。 社長が女性のこの会社は、「きれいな事務所にしたい」という思いで絨毯張りにしたのですが、そこに大きな赤アリが潰れて絡まっていては「台無し」になってしまいますし、露骨に「不快感」を私に向けてくるでしょう。 幸い、今日は月例の日本出張なので、一匹ずつゆっくりと摘み取る事ができましたが、こんな所を見つかったら、言い訳の常套句である

 「ここはタイですから、仕方ありませんね。」

 は多分使えないでしょう。
卵を咥えた大きな赤アリがウロウロしているバンコク事務所なんて、日系企業では聞いた事がありませんから。

  別にこの大きな赤アリに限りませんが、タイではアリは結構厄介な「害虫」です。 ほんの一瞬とはいえ、噛まれると強い痛みが走り、
種類によっては熟睡していても目が覚める程です。

 何故か「機械」が好きで、小さなアリはよく「壁掛け時計」の中に巣を作ります。 ギヤに引っかかって潰されてしまい、その死体が原因で時計が正常に動かなくなる事がたまにあります。

 又、パソコンの中に巣くう事もあります。 ハードディスクに入り込むと、動作不良の原因になります。 10年ほど前、中古ノートパソコン専門のパソコンショップでアルバイトをしていた事があります。 その時、ハードディスクの動作不良が原因らしいパソコンの修理現場に立ち会った事があります。 2.5インチハードディスクを取り出し、蓋を開けると中から無数のアリがウジャウジャと出てきました。 内部に殺虫スプレーを吹きかけて、天日干し約1時間。 その後もう一度殺虫スプレーを吹きかけて再度天日干しを約1時間。 最後にCRC-556の類似品を吹きかけ、ハードディスクを元に戻した所、そのノートは正常に動作するようになりました。 こんな事を2回も見ると、ノートパソコンのそばをアリが歩く事が許せなくなります。

 ですが、高級コンドミニアムにでも住んでいるならともかく、駅から歩いて3~4分の距離なのに部屋代が4,000バーツなんていう激安のアパートに住んでいる者には、アリと無縁の生活を送る事は夢の又夢。 部屋の中でゴキブリを目撃しないだけでも有り難いと感謝しなければなりません。

一度でいいから、バンコクに住む一般的な日本人の生活を謳歌してみたいものです。

 帰宅する前に、ベランダを覗き込むと、潰れた赤アリの死骸と卵が散在し、その周りには小さな黒アリが沢山たかっています。

 翌日出社してベランダを眺めましたが、昨日の出来事が嘘のようにきれいに片付いていました。

 バンコクにあるオフィスビルのベランダで起きた「食物連鎖」は、私に自然の力強さを感じさせてくれました。


2012年6月19日火曜日

アリの巣 1

 6月15・1617日の3日間、「小さなお寺」で月例瞑想指導会があったので、いつものように参加してきました。
参加者は庭にテントを張り、そこで休息を取ったり寝たりします。 それが嫌で最終日だけしか参加しない人もいます。
  私は大抵の場合、テントは利用せず、「クティ」と呼ばれる僧房に泊まっています。 ここには僧房が2軒あり、お坊さんが来られた時にはここで休息や睡眠をとって貰います。 それ以外にも、メーチーのお母さんが来られたときにも、ここに泊まります。 それ以外の時は厨房をまかなっているK.N.さんが寝泊まりしています。 とても温厚でメーチーの話をよく理解している方で、説法が難しかったりして私が理解できないとき、夜寝る前にK.N.さんからもう一度解りやすく説明して貰っています。

  ここに到着すると、いつものように「ケーオ」と「チャオクワイ」、2匹の飼犬に餌をあげ、それからクティで着替え、鞄をいつものようにタンスの上にのせてから食堂に向かいました。
3日間(実質2日間)瞑想指導会が終了し、お土産の果物を
いつもより多く貰って、バンコクのアパートに戻りました。 この日の果物は「小さなお寺」の庭で取れたランブータンやローンコーンです。 殺生になるからと殺虫剤を使用していないので、付いていたアリがいつもより多かったようです。 大きな赤アリがアパートの中をうろうろするのでちょっと閉口しました。 ですが、タイでアリの事をぼやいてもどうにもなりません。 私の部屋には餌になるようなものはないので、そのうちいなくなるでしょう。 疲れていたので、その日はそのまま寝てしまいました。

 翌朝目が覚めても、部屋の中を赤アリがうろついているのを見て、気分が少し萎えました。 最悪は「アリの巣コロリ」でも使う必要があるかも知れません。 そんな事より、早くしないと会社に遅刻しそうなので、鞄にパソコンを突っ込んで、慌てて部屋を出ました。
 会社に到着して、私用パソコンを取り出そうとすると、鞄からアリが2~3匹出てきました。 大きな赤アリが白い事務机の上をウロウロする様は私的には大きな「ミスマッチ」です。 そして鞄の中にはまだいるかも知れません。 それは幸先の悪い1日のスタートを予感さます。 こんな時に苛々しながら物事をすると、とんでもないミスを犯しそうですから、気を落ち着けながらノートパソコンを開きました。 次にACアダプターを取出して机に置いてコンセントに指すと、机の上をまた赤アリが歩いています。 ACアダプターをよく見ると、白いコードに赤アリが7~8匹たかっていました。 嫌な予感がしたので鞄の中を見ると、大きな赤アリが2~30匹ほど歩いています。 携帯用の充電器や予備バッテリーを入れたポーチを取出すと、フラップの下からもぞろぞろと出てきます。 中には「卵」を咥えているのもいます。 フラップを開き、中身を取出すと、卵を咥えて慌てふためいたアリが2~30匹ほど出てきました。 慌てて事務所の窓を開け、ベランダにはたき落としました。 ポーチの中には卵が沢山入っています。 何でこんな事になっているのか分かりませんが、兎に角アリと卵を出さなくてはなりません。 口を下に向け、鞄の底を何度も叩いて落とし、つぶれてしまった卵をティッシュで拭き取りました。

 「もしかして・・・」
 そう思って、予備携帯やメモリーを入れてある小さな鞄を出すと、そこにも赤アリがたかっています。 さっきより数が少ないのですが、外側に潰れた卵が5~6個くっついています。 同様にベランダではたき落とし、ティッシュで拭き取りました。 イサーンでは赤アリの卵を好んで食べますし、私も好物ですが、自分の鞄の中にいる赤アリの卵は食べる気になりません。

 念のために他の中身も調べた方がいいだろうと鞄の中を見ると、そこはまるで「アリの巣」のようでした。 100匹以上のアリと、ほぼ同数の「卵」が私の目に飛び込んできたのです。 急いで鞄の中身を全部出し、鞄を逆さまにしてアリと卵をはたき落としましたが、布製の鞄なのでアリもそう簡単には落ちてくれません。 全部叩き落とすにはかなりの時間がかかりました。 ふとベランダを見ると、そこには何百匹ものアリが慌てふためきながら潰れていない卵を探し、咥えて、安全な場所を求めて歩き廻っています。 オフィスビルでは滅多に見る事のない不思議な光景に、私は暫く目を奪われてしまいました。